10月の展覧会 2004年

伊藤 正好

2004年 10月5日(水) 〜10月30日(土)

レセプション 11月8日(金)5:00-7:00PM

開画廊時間 :火〜土 12:00-6:00PM

 

伊藤 正好

オブジェ/ミックスメディア

ギャラリーNYCooの第六回展、伊藤正好個展が開かれる。会場にはフロッピー・ディスク2枚を対にしてカンバスの木枠に張り付け、アクリル系モルディング・ペーストと絵具で表面を塗りつぶした作品50点余りが壁面を覆う。グレー系統の色調でマティエールの施された作品表面にはフロッピー・ディスクとそれを定着する為に使われた釘の形がかすかに残在し、この作品が作られた経過を物語る。


しかし、この作品が提起するものは表面上のイメージが絵画として成立するかが問題ではなく、作品全体が物自体として存在することである。そして50余点の作品で画廊壁面空間を埋めて作り出すインスタレーション的環境空間がその主要目的となる。
他の出品作は黒く塗られた小型カンバス裏側の木枠の中に針金をねじって作られた人物立像のシリーズである。この立像はその素材の金属色で、黒い背景に浮き出され、時に月のような形体がその像の頭上に浮ぶ。


イラストレーションのフリーランスをする伊藤は少年期早くから絵を描く人生を考えていた。その時代を含めると40年を超える年月絵を描き続けてきた。作品数がかなりの量になり、作品傾向も多伎にわたる。そして、それらの作品の核心は「絵は自分を満足させるために描かなければならない」と云う彼の言葉に見い出される。作品テーマは少年期の体験風景としての漁港、サックスホ−ンを吹く自分、何時からか脳裏に定着した女性の着物の柄などであった。作風は作家の好む色相対比、半抽象化された形体の画面構成、抽象表現主義的スピードの筆跡などと説明される。これらの作品は1999年の練馬区立美術館個展、2000年の松濤美術館公募展奨励賞と連なる成功を生み出す。


このニューヨークでの個展の作品は最近作であるとは云え、この過去の作品と比べての相違は驚異的である。如何してこの突然変異のようなことが起ったのだろう。 勿論、作る者は常に自分の作品を変える自由を持っている。未だ経験したことのないものへの探求は自ずから作品を変えていくのは当然だし、そこにこそ芸術家の生涯が成り立つ訳だ。そして、この変わることには常に何かの理由付けがあり、文脈がある筈だ。では、ここにはどのような理由付けと文脈があるのだろう。


過去の作品テーマには故郷回帰、実際の、また心のふる里に廻り帰るロマンティシズムがあり、色彩もカラーフィルターを通して風景を見るような郷愁を誘った。対して、最近作のグレ−の色調と反絵画的な表現は感情的なものを排除した非ロマンティシズムを感じさせる。全く両者間に共通点を見出せない。断絶が突然に起きたとしか云いようがない。

この新作での個展は、過去を否定してこそ前進がある、と云うことなのだろう。過去を問う必要ない、今回はこれだ、なのだ。いかなる断絶でも、表面的見せかけでないものは時間と云う距離を経ると自ずと断絶と断絶の中に理由付けが、文脈が見えて来る。実際に作品を前にして熟考し、また見直す必要があるだろう。今回の伊藤の個展出品作はこの断絶ゆえに作家の意欲を感じさせる。更に、それではこの次、彼は何をするのだろうと云う好奇心も湧く。

 

ギャラリーライター 中里 斉